遠くに行きたかったの。
誰もわたしを知らないところへ。
わたしの名前が要らないところへ。

地獄では、誰かがぼくを裁いてくれるから
自分で自分を裁く必要がないんだ。
楽だね、誰も自分で死ななくていいし、殺さなくていい。
もう、誰も。

神様、大事なこと分かってないね。
彼らが「生まれてこない方がよかった。」と言うとき、
そこにあるのは救済だよ。

「生まれてこない方がよかった。」と言うとき、
例えるなら胸にお守りを抱いていて、
それは魔法の呪文のように、唱えると少し心を強くしてくれる。


何もない真っ暗な夜に、
春の温度だけが生温かく満ちて。

ほら、灯りがなくても、白い花は輝いて見える。
だから怖いって言われるんだよ。

ジワジワと欠けていく心を、観察でもするように、静かに見守っている。


ごめんね、言葉は、足りなくて良いと思った。
初めから、説明して分かってもらおうなんて、思ってなかったんだ。

一番赤く、艶があるのが毒林檎。
きみには先に教えておいてあげる。
順番にバスケットを回して、
どうぞ、好きなのを一つ選んで。

今までの道のりが全て運命だったとしても、
この後どう行動するか、何を発言するかは、きみ次第だから。


遠くに行きたかったの。
誰もわたしを知らないところへ。
わたしの名前が要らないところへ。

そのときに初めてわたし、世界の一部になれる。
そのために生まれてきたんだって思えるの。


長い長い旅の果てに、ようやく見えた終着点。
きみが、人生を価値がないものと思ったとしても、仕方のないことだからね。
それは、きみのせいではない。

きみのせいではないから。



毒林檎/地獄/終着点