弥乃様に、ユリルク小説を頂きましたVv掲載が遅れてしまい、本当に申し訳ありません><
弥乃様宅のマイソロ2設定ユリルクの連載小説が大っっ好きでして、リクエスト企画に図々しくも参加させて頂きました///
以下、素敵小説ですVv一つのブログの記事に入り切らなかったので、記事を分けさせてもらっています><
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【Hands-chapter6-】
可愛いものには、罪がある。
今までそんなことを理解する必要もなかったし、意味もないこと。
もちろん自覚などなかった。
ましてやこんな感情に囚われるなど。
それだけこの心は、
手の届かない深海にまで引きずられ、
溺れていたんだ。
「………………」
今日もこのバンエルティア号は、清々しい風と暖かな陽光に包まれていた。
海水浴にはもってこい。
活動的な人間は反動に家を飛び出すだろう。
そんな、いつもの天気。
「おやーここだけ何か雨模様?」
「…………………何だよ」
ぼんやりと手摺りに寄り掛かり、高台から甲板を上から見下ろしていたユーリ。
その背中から調子のいい声が上がり、彼のテンションは急勾配を更に下っていった。
快晴に似合わない低い声に殺意を感じて、ゼロスは「ぉー怖い」と茶化した。
(………ムカつく)
「そんな怖い顔してっと、愛しのハニーに逃げられちまうぜ、色男?」
「………それ以上減らず口叩くと、俺何するか分かんねぇぞ神子様?」
「うわ、そー来ましたか」
肩を竦めて笑っても、ユーリの目付きは不機嫌全開から変化はない。
そんな目で睨まれては、さすがにゼロスも冗談で付き合ってはいられない。
つまらないとでも言うように大きく息をつくと、柵にもたれ掛かるユーリの隣に背中を預け、彼に目をやった。
「で、そんな不機嫌撒き散らしてどしたの?
らしくないじゃない」
「ぁー…………」
「ぉ、ルーク様v」
素直に悩みを打ち明けるかどうか困り果てていた彼の横で、ゼロスは黄色い声を上げた。
ふっと、彼に倣って、ユーリも目を向ける。
柵から見下ろした甲板に、何人かの楽しそうな姿が見える。
その中には、あのルークの姿も。
「なぁ、ルークもやろうぜ!船の真ん中でグルグル回ると楽しいんだぞー」
「うげ……何かスゲェ酔いそう」
「ダイジョブダイジョブ!ほらほら、グルグルー♪」
「ちょっ、マオ、やめっ……うわッ!やめろって、っははは!」
「それ、もういっちょ!」
鴨が鳴き歌う快晴の下で、じゃれて騒ぎ合う楽しそうな声が空いっぱいに響き渡る。
彼らと戯れるルークの笑顔は子供のように無邪気。
普段から背負っている皇族としての責務とは無縁なその宴に、心から安らぎ、喜びを身体いっぱいに感じている。
その純粋無垢な明るい笑顔。
それを映して、ユーリの目は不服そうに細まり、小さく溜め息をついた。
「ロイド君らも楽しそうじゃないー。ま、俺様大人の男だからまざんないけど。
…………ってあれ、ご機嫌ナナメ?」
「………………」
「可愛い恋人があんな魅力的な笑顔咲かせてんだぜーもっと自慢してもいいんじゃない?」
「………………なーんか、面白くねぇんだよな」
しばらくだんまりを決め込んでいたユーリが、諦めたようにようやく口を開けた。
その表情はやはり快晴に似合わず沈み、彼らとは正反対で、明らかに楽しそうではない。
柵にもたれ掛かり、ゼロスは彼の顔を覗き込んだ。
…………何となく、彼の病状を察した。
「何々、ガラにもなく嫉妬?」「なッ…………!」
「へぇ、図星っぽいじゃん」
覗き込むゼロスの顔が、嫌にニヤつかせる。
ユーリは虚を突かれて思わず目を見開いて驚愕した。
その変化に確信を覚える。
ゼロスは再び口を開けた。
「だって、あの可愛い笑顔が他の人間に向けられていざ“面白くない”。そーいうことだろ」
「………………」
「男の嫉妬は醜いぜー?」
茶化すゼロスの声に、彼からの反論はなかった。
一瞥したユーリの顔は、どこか深刻だった。
冗談、なんて生易しい表情じゃない。
やがて彼は、ゆっくりと口を開けた。
「…………分かんねーんだよ」
「ん?」
「こんなんでイライラすんの………初めてだからよ」
長く垂れる漆黒の前髪を掻き上げるように、悩ましく額に触れる。
その横顔はすっきり整っており、長い睫に、通った鼻筋、溜め息を漏らす唇。
男にしておくのがもったいない程の、誰もが羨む、文字通りの色男。
黙っていても世の女が振り返らずにはいられない、苦労しない容姿を持っている。
そんな彼が覚えた、まさかの嫉妬。
面白い見物だが、これ以上からかえば、冗談なしに彼の逆鱗に触れかねない。
「ま、何でもいいけどよ、だからってハニー傷付けるようなことすんなよ?
ルーク様は皆の大事なハニーだから。もちろん俺様も」
「……………」
「んじゃ、俺様頼まれてた依頼行くわ。せいぜい悩みなさいな」
ゼロスはさも他人事のように言うと、手をひらひらさせてその場から立ち去った。
その背中を冷めた目で見送る。
背後からは、彼らの愉快な声が今もなお耳を突く。
意味不明な憤りは、煽られるばかり。
つく溜め息も、らしくもなく増える一方。
「………………」
ユーリは背中に預けていた柵を離れる。
携える刀を手に、彼はゆっくりと船内へ姿を消した。