爆風に煽られて地面に叩きつけられた衝撃は強かで本能的に生命の危険に目を閉じる。
目を開けて突きつけられた現実を俄かには受け入れ難く、それでも明確に向けられた『しんでしまえ』という悪意を感じた。
思いやればあの時に初めて見ず知らずであればこそ、殺意を向けられたファーストコンタクトだった。
その殺意は自分以外の命を奪い取り、暖かな全ての世界を一つの爆弾で崩落させた。
双子の兄弟と競い合った射撃の腕
スコープ越しにターゲットを見つめる目
幼い頃に培ったそれは皮肉にも、殺意を以て他人の命を刈り取るスナイパーへと変貌した。
腕も視力も、世界を壊された怒りのどれもこれも衰える事はなく、スコープ越しに見えるターゲットを見てトリガーを引く。
一つの世界を壊すに値するには決して重くはないトリガー。
決して見つかる距離ではないが現場を離れるに越したことはない
ビルを下りてポケットから煙草を一つ取り出しくわえて、火をつけようとすると視界を掠めた滴
「降ってきたか」
ぽつぽつと地面に斑を描く、ゆっくりとした。徐々に数を増やして行く雨。
一仕事終えた後の一服を使用とするが徐々に濃厚になり始める雨の匂いと遠くから聞こえて来る人々の叫び、警察車両のサイレンの音。
教会の鐘の音、午後の讃美歌
それら全てが絶命した標的への手向けになるようにと胸中で十字を切り、喧噪に背を向けて地下街へと入る。
人の口に戸は立てられない。
地上ではまだ騒ぎになっているだろうと踏んで近場のカフェに入りコーヒーを一つ頼む。
程よい苦味が喉を潤して煙の代わりに胸を鎮めていく。
一つの依頼が有った、相応の金額は生活を送るには十分な金額。
据銃をする。最早慣れた動作、呼吸の一つも乱れはない。照準を合わせると今まさに覗き込まれていることも気付かないターゲットは隣人と笑い合っている。
世界は理不尽で残酷だ。幼い頃のKPSAのテロによって家族を失った自分はその理不尽さと残酷さを嫌というほど知っている。
全く見たこともない、どこかですれ違ったのかも知れないが記憶に引っかかるほどでもない。それでもターゲットはどこかの誰かと繋がっている。
理不尽で残酷な運命にターゲットの家族は慟哭を上げるかもしれないが、それでも相応の対価を懐に入れた以上、それらを加味する必要もない。
許されようとは思わない。
せめて願う、血を分けたたった一人の弟が自分の様に怒りを燻らせるのではなく光の中で生きられるようにと。