はらり ひらり
積もって
総てを
覆い隠す
「う゛ぉおい起きろぉ、雪だぜぇ!!」
目が覚めたとは言い難い微睡みの中、頭に響く大声が耳をつんざく。
隣をまさぐればある筈の温もりもなく、寝起きの不機嫌も相俟って手近な目覚まし時計を思い切り大声の持ち主に投げ付けた。寸分違わずヒットし、呻き声が漏れる。
「ぐっ…何しやがる!!もう昼だぞぉ!!」
「るせぇ!!今日は休みだろうが!!朝からがなるな!!」
「もう昼だっつってんだろうがァアアアア!!」
幼稚な言い合いの末に、馬鹿らしい、と溜め息を吐いてザンザスは再びベッドに潜り込む。それを素早く阻止する手腕は伊達にヴァリアーのNo.2を、ザンザスの妻役を務めてはいない。
「起きろぉ!!雪が積もってんだ、見に行こうぜぇ!!」
「…てめぇはガキか。雪なんざ窓からでも見れるだろ。自分の歳考えやがれ」
投げ遣りにやかましい鮫を放置すると、余程悔しいのか今度は大声だけでなく枕までぼすっと降ってきた。ザンザスに枕を投げ付け、そこにスクアーロは顔を埋めていた。
「なーなー見に行こうぜぇ…お前と雪ゆっくり見れるなんて何年振りだぁ?」
「………知るかよ」
「……最近あんま一緒に居れねえし」
「てめぇが100人斬るだのガキのお守りだなんだで飛び出すからだろ」
「なんかお前冷てぇし」
「いつもだろ」
「妬いてるのは俺だけかぁ?だとしたら虚しくねぇ?」
「そりゃお互い様だ」
「………う゛、ぉ…」
さらっと放った一言に、鮫の顔面が一気に赤くなる。
ザンザスは笑いを噛み殺して、俺も随分丸くなったもんだと結局苦笑は殺しきれず、むくれてるのか照れてるのか、半々なのか、黙り込んだスクアーロの銀髪を弄ぶ。
この銀髪に懸けられた願いは、途方もないものだ。
この単細胞バカは、帰るかも解らない自分を待ち続けて無茶な事ばかりして、帰ってきた自分による理不尽な暴力にも耐えて耐えて耐え抜いて。そしてスクアーロも少しずつ自分の意見を通す事を覚え始め。
やっと、落ち着いた。
色々なものを与えてくれた、頭の弱い、傲慢だけれどもそれでも真っ直ぐなこの鮫に返せるものを見つけられた。
「………ボス?どうしたぁ?」
「……何でもねぇよ」
「なんだぁ、黙りこくって。考え事かぁ?」
スクアーロが、穏やかに、いつもの獰猛な笑みではなく、柔らかく笑う。いつから、こんな笑い方をするようになっただろうか。
「……いつになったらてめぇがまともに仕事するのか考え中だ」
「う゛お゛ぉい!!どういう意味だぁ!!」
がなってはいるが、本格的に機嫌を損ねた訳でもなく。むしろ上機嫌に笑って、じゃれついてくる鮫を構いながら、ふと思う。
いつか、伝えられたら。
積もり積もった、長年の、色々なものを。
上機嫌にじゃれついていたスクアーロが、ふと、ザンザスを見上げる。
「……ボス?」
「……もし、」
「?」
「もし……、俺とテメェが別の道を歩いてる未来があったら、どうする」
一瞬、きょとんとした表情を見せたスクアーロが、すぐに勝ち気な笑みを浮かべた。
「何悩んでんのか知らねえが、俺は意地でもお前を探し出すぜぇ!!別々だろうがなんだろうが、絶対ぇ見つけてやる」
「………………」
どこかこう、ずれた答えが返ってきた気がしたが。
それが、スクアーロなりの気遣いで、どこか翳った表情を見せたザンザスから不安を感じ取りそれを振り払おうとしたのだと気付いたのは、少し後。
「…………大丈夫」
スクアーロが、じゃれついてきた姿勢のまま、ザンザスの胸板に顔を埋める。
「…………大丈夫、」
繰り返される言葉は、時に、愛してると囁くのにも、似ていた。
(降り積もって降り積もって)
(覆い隠すのは)
(絶望か)(希望か)
(なんにせよ、今腕の中にあるのであれば、守り抜ける)
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何を書きたかったか すっかり忘れた!!←
甘える三十路って…いいよね…ぽわあああん