多分上忍とかになってナルサス普通に二人暮らししてる前提






「違う…違うッ!!こんなんじゃない!!」
「………サスケェ?何してんだってばよ?」


任務を全うし、上機嫌で帰宅したナルトの目に入ったのは、台所で突っ伏すサスケだった。




「何故だ…この天才の俺でも見抜けない何かが…何があるというのか…!!」
「サスケー、ただいまー」
「写輪眼でも見抜けない?万華鏡写輪眼だぞ?バカな、そんなバカな…ッ!!」
「…サスケぇ…」

情けない声だとは自覚できる、それでもナルトは呟かずに居られなかった。
どれだけ機嫌が悪くても、ナルトの存在をここまで綺麗にシカトするという事は早々無い。
なのに今目の前にいるサスケは、ナルトの事などまるで見えていない。
ただただ台所の床に突っ伏し、自問を繰り返している。
…尋常じゃない。こんな深刻に落ちているサスケは、任務中ですら滅多に見る事はない。

「なーにやってんだってばよぅ……んあ?」

まだぶつぶつ言ってるサスケが何をしていたのか…台所に並ぶおにぎりが、何を語るというのか。
どれも見事な艶、形に揃っている。あのサスケが本気を出せば、全く同じおにぎりが並ぶ。
ただ、その数が尋常じゃない。
幾ら大食らいの男二人の家でも、ここまでの量のおにぎりは並ばない。
炊飯器の中身はあらかたおにぎりに化けている。
テーブルの端に、おにぎりの具に使ったおかかと昆布の煮物が小皿に乗っていた。
サスケの好物はおかかおにぎり。
それは里内で知る者は知り、知らない者は呆気に取られる。
おかかおにぎりを研究していたのか?それなら何故昆布が…?
別にこの家で昆布が使われない訳ではない。
ダシを取るのに、味噌汁に、色々使う。ただおにぎりの具に使われた事は一度も無い。
益々ナルトの思考がこんがらがる。まーだサスケはぶつぶつ言っている。

「…何が悪い…何が足りない何故ダメなんだ…えぇい諦めるなうちはサスケェ!!」ごちんッ
「うぉぅッ!?」
「ん?何だナルト、帰ってたのか」
「……サスケェ…これは…」

蹲ってぶつぶつ言っていたサスケが勢いよく立ち上がり、その石頭でナルトの顎を強打した――よくあるが、いざ体験するとあぁ笑っててすいませんみたいな、そんな心情、今のサスケにはどうでもいいらしい。
平然とした顔色で、今更ナルトに気付く。
ナルトは若干意識がぐらついていた…何故、サスケはノーダメなんだ。

「帰宅したら声を掛けろと何度言ったら解るんだ」
「声掛けたけどサスケがシカトしたんだってばよー」
「…まぁそんな事はどうでもいい。俺は忙しい。メシは適当に食ってくれ」
「適当って…このおにぎりの山は?」

テーブルに並ぶ白い山を指差す――その瞬間、サスケが阿修羅のような形相を呈した。
そしてそのスピードは忍で最も鋭いと謳われた拳が、ナルトの顎を再度打ち上げる。
「これがおにぎりと呼べるかァ!!」ガンッ
「ぐぉあッ!?」
「いいか、おにぎりっつーのは、シンプルに見えてあらゆる複雑な要素の上に成り立つモノであって、決して軽視していいものではないッ!!食物に求められる要素とは何か?味か?見た目か?満腹感か?色々あるな、総ての食べ物に総ての要素が要求される――――」

ナルトの意識がふらつく。遠のく。
サスケは何やら熱弁しているが、耳から耳へ流れている。
何故、今、殴られた…?

「――よってだ、今ここに並ぶこの米の塊に何が不足しているか?そうだ、その絶妙なるバランスだッ!!味、形、品質――それらが最高レベルだとしても、調和が取れないという事は先程も説明したな。この米の塊にはそれが足りない。かつてうちの母さんが作ったあのおにぎりのあのバランス、あれが何故再現出来ない?写輪眼を用いても何故見抜けない?俺は何を見落としている、何に気付いていない!?…聞いてるのかナルトォ!!
「ぱぎゃッ!?な、何か今日のサスケ変だってばよ…!!」

色々ごたごたがあって、まぁとりあえず里には帰ってきたサスケは、若干性格が変わっていた。
開き直ったといえばそれまでだが、物事に対する執着のベクトルが、なんというか…おかしい事になっていた。
生来の性格なのか、鷹だの蛇だのよく解らん事をやっていた為なのか。ナルトには解らない。
そして今日は輪に輪をかけておかしい。
何かに対してこうも熱く語る姿は…見た事があるようなないような。
まだ何か騒ぐサスケの話を要約すると、

「…要はサスケは、納得のいくおにぎりが作りたいと」
「――であるからしてッ!…何か言ったか?」
「だから、サスケはおにぎりを作りたいんだよな?」
「あぁ。お前話聞いてたか?
「聞いてねぇのはサスケだってばよ…ぬぁッ!?すいませんッ!!」

サスケの意思疎通手段の一つに、殴る蹴る、千鳥、果ては麒麟までもが含まれている事を失念すると、こういう事になる。
ナルトは三度顎を打ち上げられ、そろそろ辛くなってきた。顎、外れそう。
それにしてもサスケの様子はおかしすぎる。熱でもあるんじゃないだろうか…逆らったら、下手したら、怪我じゃ済まない。
「……何の話してたんだ…どこまで喋ったのか…あぁ畜生思い出せん!」
「おにぎりの話であります、サー!!」
「そうだ、おにぎりだ!あの味を再現するには何が足りない…俺は何を見落としている…何を!何が!?」
「さ、サスケさん…」

頭を抱えてがーがー言ってる…クールで強がり、という姿は完璧に吹き飛んでいる。やっぱり熱でもあるんだろうか。

「大体こんだけ綺麗に握れてんだから立派なおにぎりだってばよー?」

そう言っておにぎりの一つに手を伸ばす――スパァン!!

「ぎゃッ!?」
「こんな不完全な物体のどこがおにぎりだァ!!不完全な料理を食わせる等言語道断!!」
「サスケが作ってくれて食えるモンなら何でもいいんだってばよぅー、腹減ってるしィ」
「俺のプライドに関わる!!これを食らうとゆーならば形を崩せェー!!」がしゃー
「あー勿体ねー!!」

最早錯乱の域に達している…若干ナルトの背筋を、任務中の緊張感が這い上がる。
サスケは叫びながら手にした杓文字でおにぎりをすぱーんと斬る。…大丈夫ですか?
それでも腹は減ってるナルトは、おにぎりの欠片を口に放り込む。

「…普通に美味いけどなぁ…」
「違う…違う…何かが違う!何が!?塩加減か?握り具合か!?劣化した記憶を再現する事は不可能なのか…!」
「んー、こっちよりこっちの塩加減のが好みだってばよ…つーか全部具がおかかってすげぇよなぁ…」

また自問自答を始めたサスケを放置し、ナルトは次々とおにぎりを平らげる。
…そう言えば、サスケがおにぎりを作った姿を見るのは、初めてな気がする。
写輪眼を用いなくともサスケの料理の腕前は中々だ。レパートリーも豊富。
そのサスケが、今までおにぎりを作らなかった。その理由。

(…そういやサスケ、昔、おかかおにぎりで買収出来たっけ…)

まだ下忍の頃。下らない企みに巻き込む時、大抵はおかかおにぎりで釣れた。
二十歳を過ぎた今、少なくともナルトは、サスケがおにぎりを作っている姿を見た事が無い。あれ程好んでいたのに。
例え外出先でおにぎりを食べたとしても、…好物を食べた時の嬉しそうな顔ではなかった気がする。

(さっき…母さんのおにぎりがどうとか言ってたっけ…)

要はサスケは、所謂「母の味」を再現しようと奮闘していた、という事でいいのだろうか。
ナルトには母の味など解らない。
が、サスケは幼少期、両親と過ごしていた。
感傷的な日に思い出す事もあるだろう。
これが両親や兄の命日だとか、そういう日なら解る。
が、今はなんでもない、平日。
サスケがここまで家庭に固執するとは、何かがあったという事。

「サスケ?」
「………なんだ」

既にサスケは床に伸びていた。…伸びていた?
上忍二人の部屋があるマンションを、絶叫が劈いた。

「ぎゃーやっぱ熱ある!!なーんで黙ってるんだってばよ!?風邪人が何で料理に没頭してるんだってばよ!?何考えてんだってばよ!?」
「誰が風邪人だ!俺は至って健康だ!!」
「健康な人間の熱じゃねーよこれ!!アホ!バカ!ウスラトンカチはお前だってばよォー!!」
「何をォ!?」

おにぎりに対する熱意ではない熱に浮かされたサスケの眼は据わっている。
ナルトは任務中でもない家でぞっとした。殺される。

「誰がウスラトンカチだコラァ!もっかい食らうか、あァ!?」
「千鳥流しのクナイは卑怯だってばよー!!」

何せガード不可、避ける他には防ぐ手段の無い卑怯な武器。
確かに世界を探せば、千鳥で切れ味をあげた刃に対抗出来る物質もあるかもしれない。
しかし木の葉の里には存在しない。
防御力を綺麗に無視する物理攻撃。
そして食らえば電流によって身体が痺れ、そのままトドメを刺される。
幾度か生身でその威力を体感した身としては、何が何でも――それこそ写輪眼でも使って避けたい。
こんな時、不謹慎ながら赤い瞳が羨ましい。

「いーからサスケは寝てろー!今サクラちゃん呼ぶってばよォ!!」
「ぬ、サクラにまでこの不完全な米の塊を食わせようという魂胆か?そうは行くかァ!!
「人の話聞けってばよこのドアホー!!」

よもやナルトの口から「ドアホ」という罵りが出てくるとは父親でも思わなかったに違いない。
サスケもサスケで完全にヒートアップしてる。脳味噌が。
互いにクナイを引き抜き、バチバチと空気が爆ぜる。
このまま家の中で火遁でも使われたらたまったもんじゃない。
先手は、打つ。

「いーから沈めェえええ!!」ガンッ
「ぐあッ!?」
「……あれ?」

言うなれば軽いジャブ、サスケのかなり先の手を読んで打った筈の先手が、見事にサスケの顎に入った。
そのままサスケはひっくり返り、起き上がらない。

「ちょ、サスケー!?」
「……塩分の割合が………具…比率……ppmレベル…

怖ェよその寝言。
ナルトは本気で思った。
高熱に魘されて暴れられるのも困るが、こう、不気味な寝言も勘弁してほしい。
塩分が何よ?
とりあえず気絶したサスケをベッドまで引き摺る。
残ったのは大量のおにぎりもどき。
サスケの杓文字ですぱーんとやられたおにぎりの破片を口に放り込みながら、サクラを呼ぶ前に台所を片付けよう、そう結論付ける。
…つーか、米の塊を杓文字ですっぱり切れるってどういう事よ?疑問は尽きない。

「ぶッは!?」

片っ端から破片を食べていたら、クリティカルヒットレベルの塩分濃度の米の塊に遭遇した。
あり得ない、これはヤバイ、海水とか軽く凌駕してる。
塩分濃縮何%ですか?

「もしかして…かなり…ロシアンルーレット的な……」

ぞっとして並ぶ米粒を見やる。
これを片付ける頃に、自分は生きてるか。
量は問題ではない。味覚が。
愛情でもカバーしきれない見えない何かが立ち塞がっている。







結局、一晩かけてロシアンルーレットな米の破片を食い散らかし、最後にトドメの素晴らしき塩分濃度に遭遇し卒倒したナルトであった。
…サクラがサスケの看病に辿り着いたのは、翌日の昼頃。
ナルトは早朝ら辺りで倒れていた。






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大人ナルサスはこれくらいバカだといいと思います。
いえす青春カップル!!