2014-5-27 13:03
「…私を…軍師に……?」
「あぁ。…僕には時間がない。策を立てる軍師も人手不足なのは同じでね。君にはその素質がある、素質がない人間を育てるより遥かに早く身に付けるだろう。興味はないかい?」
「……しかしこのご時世、女の言う話に耳を傾ける殿方は少ないのでは…?」
「その通りだね。でも、僕の全てを君が受け継げられればそれすらも覆せる。豊臣は力を尊ぶ、実力者であればそれがなんであろうと関係ない。君が生きる道を、君だけの知能で切り開けられるようになる…と言ったら?」
「!」
鎮流はぶるり、と体を震わせた。
ーそれは恐怖からのそれではなく、快感に跳ねるかのような震えーー
鎮流はぞくぞくとするものを感じながら、僅かに頬をも昂揚させていた。
何故かは彼女自身にも分からない。
ただひたすら、興奮を感じていた。
半兵衛は嬉しそうな楽しそうな、見るものを惑わせ誘惑させるかのような、妖艶な笑みを浮かべる。差し伸べていた手をそのまま上にあげ、鎮流の頬に添えた。
つつ、と半兵衛の細い指が鎮流の頬を這う。びくっ、と鎮流は肩を跳ねさせた。
「…ふふ、可愛い子だね」
「………貴方には…まるで人の心が読めるかのようですね」
「そうかな?それが怖いかい?」
「……いいえ」
「君ならそう言うと思ったよ、鎮流くん。…もう心は決まっているだろう?」
鎮流は自分の目を見る半兵衛から目をそらせないまま小さく頷き、その場で膝をついた。
「…一命に変えましても」
「ありがとう。これからよろしく頼むよ、鎮流くん」
「はい……竹中様」
こうして鎮流は、豊臣軍の一員になることが決まった。
「軍師になる…?!何を仰っておいでなのですか、お嬢様!」
「決まったことよ、あまり大きな声を出さないでくださる?じいや」
「しかし…ッ」
その日の夜、源三に半兵衛の弟子の形で豊臣軍に入る、と言った鎮流の言葉に源三は戸惑ったように鎮流を見た。同席していた家康も持っていた籠手を取り落としたのに気がつかないまま、きょとんと鎮流を見ていた。
「…ちょっと待ってくれ鎮流殿、あなたがそんなことをする必要は、」
「元より私は貴方の妻でもなければ親族でも部下でもありません。いつまでも貴方の世話になり続けるわけには参りませんので」
「だからといって軍師だなんて…!あなたは戦場を知らない!危険すぎる!」
家康はようやく我に帰り、落とした籠手を拾ってそう言った。鎮流は僅かに目を細める。
「危険を伴わない人生などありませんよ。初めに申しあげたはずです、信頼できぬ者に生かされることは望まないと」
「ワシを数日で信用しろというのは無理な話だというのは分かる、だけど」
「…私を、あんな風に認めてくださった方はいないのですよ、徳川様」
ぽつり、と鎮流が呟くように口にした言葉に、家康は戸惑いながらも首をかしげた。